第2章 フィリピン留学編
第28話 英会話学校を本当に手作り
フィリピン最大を決意する
いよいよ本格的にフィリピン留学の学校を作る準備を始めました。
当時のビルのオーナーと親しくなっていたので相談にしに行ったのです。
「そろそろ広い場所に移りたい。もう1フロアー貸して頂けないか?前に話していた11階のフロアーを貸して欲しい」
1フロアー2500平米のビルで当初、空きスペースが多かったのでお願いしてあったのです。
「え、本当にもう1フロアー使うのか?」
「そうです。随分待たせてしまいましたがついに広げる準備が整いました」
「創業時、無料でオフィスを使わせて頂いた時の話を覚えていますか? 初めは1フロアーそのうちビル丸ごと全部借りる予定ですよ」
「冗談だと思っていた。まさか2年でこんなに大きくなると思わなかった。ごめん、もう貸しちゃったんだ」
リーマンショックの傷が少しずつ癒えてきて、オフィスビルの需要が高まっていたのです。
別のビルを探さなくてはなりません。幸いITパークだけで7棟も建設中のビルがあります。そろそろ出来上がりそうなビルがあるのですぐにアポを取ったのです。2011年のクリスマスの頃でした。
1フロアー1100平米なので3フロアーでの交渉ですが、既に問い合わせが多いようで心配でした。
新しいビルのオーナーの返事は
「4フロアーまとめて借りてくれるならよそを断って貸してもいい」
だったのです。
「え、4フロアーもか」
全部借りるとフィリピンで最大のオンライン英会話とフィリピン留学の学校になってしまいます。さすがにちゅうちょしたのですが
「世界一の学校を目指しているのに、フィリピンで一番でなくてどうする」
ITパークのど真ん中に位置する18階建ビルの7階から10階までを借りることにしたのです。
4400平米の工事を自分でやる
4400平米の工事もアルのチームにやってもらおう。
そのころにはフィリピン留学の寮を5棟リホームしていてアルの建築チームも20人以上に膨れ上がっていました。
「業者に頼むと持ち逃げされるかもしれない。自前で資材を買って大工と左官屋、電気屋を直接雇おう。なんとかなる」と思ったのです。
「アル、見積もりを取ってくれないか」
「え、このビルをやるのか? アルは嬉しそうでした」
「設計図は僕が手書きで書くからそれをプロに頼んで図面に起こして欲しいんだ」
二年かけて作ってきたオンライン英会話とフィリピン留学の集大成の学校を作るのです。今までコンサルを頼まずに一から自分で作ってきた学校です。やりたい学校の形は私の頭の中にはっきりとありました。
学校にはフィリピン留学の生徒が一対一の授業をするブースが120部屋。グループレッスンができる部屋が30部屋。食事をとるカフェは200人以上収容できるようにする。オンライン英会話のブースは1000以上作ろうと考えていました。その他、卒業式などができるステージやラウンジも作り、自習室、医務室、等々、構想がどんどん浮かんできました。
今までは手狭になった400平米の学校で苦労していたのでスーパーティーチャーも嬉しくてしかたありません。マネージャーの席、トレーニングする場所、面接する場所などのいっぱい要求がきたのです。
最近アルの様子が変わってきました。服装が良くなってオシャレになり、フィリピンでは珍しいiPadを買ってフェイスブックにハマっているのです。もちろん人一倍高い給料を貰っているので「事務所で寝ていればお金が貯まるんだな」位に考えていたのです。建築がはじまって少し経った頃アッキーが「最近アルが事務所で寝てないんだよね。忙しいのかな?」と話したのが少し気になっていました。
2012年の初めには内装工事が本格的に始まりました。300人も職人が一斉にきて工事がスタートしたのです。
そのころイタリアとイランのハーフの学生がフィリピン留学のデモ生徒にいました。お父さんがイタリア人で建築会社を経営していて、本人はイタリアの大学で建築を学び英語の勉強を兼ねてセブの大学院に留学していたのです。名前はエッサンです。
大学院の合間に英語の勉強で来ていたのですが、私が内装工事を始めたのに興味を持ち
「お金はいらないので手伝わせてくれないか?」
と言って来たのです。
もちろん断る理由もないのでアルのチームに加わり現場に入ったのです。
少しするとエッサンが
「らいこう、どうもおかしい。お金がかかりすぎている。チェックしてくれないか?」
「お金は問題ないと思うよ。アルが直接管理していて業者任せにしていない。彼とは6年も付き合ってきているから大丈夫だ」
「そうか、でもなんでも高すぎるし、ワーカーも多すぎる。なんでこんなにたくさん雇ったのだろう?」
「アルに理由を聞いてみてくれないか?」
その時は済んでしまったのです。
人生最大の授業料を払う
私がエッサンと二人で寮で使うエアコンの追加注文に行った時です。
「なんで前回来たときより値段が高いんだ」
エアコン屋に詰め寄ったのです。初めに私がきて交渉したときより2割高かったのです。
「いやいや、いつも同じ値段ですよ。領収書だけ高く書くように指示されているんです。名前は知りませんが前回あなたと一緒に来たフィリピン人男性です。そう、そう、iPadをもった背の高いスタッフが差額を集金にくるんです」
「え?iPadを持った?」
一緒にいたエッサンが
「やっぱり。セブ語とイタリア語が似ていてけっこう同じ単語を使っているんだ」
フィリピンは昔スペインの植民地でスペイン語の多くがセブ語に入っているのです。そしてそのスペイン語とイタリア語が近いのでエッサンはセブ語を少し理解していました。
アルは知らないのでエッサンがいるときにセブ語で話してしまったのです。
「少し前だけど、らいこうが英語で値下げ交渉をしている時に気になったんだ。アルが横からセブ語で、らいこうは『日本人』『金持ち』『高く』『分ける』とか言っていた。見積もりをもう一度調べた方がいい」
びっくりして今まで取った見積もりを、別会社としてもう一度取り直してみました。結果、2割高い。すべてが繋がりました。そしてやられた、と思いました。
いろいろ調べてみるとフィリピン留学の掃除スタッフがアルの家で掃除をさせられていて「プール付の家で車もあった。車はらいこうのより高級車だったよ」など続々話ができてきます。
今回のプロジェクトはエアコンだけでも3000万円の見積もりがきています。工事費も数千万です。2割高く請求して一割ずつ業者と分けていたのです。
この金額の一割なら車どころかセブなら豪邸が買える金額です。
当時で6年の付き合いがあり私の招待で日本にも来ていたのです。アルには無防備でした。
日本では私の自宅に泊まり、浅草、六本木、東京タワー、ディズニーランドなど一緒に楽しんだのです。
「らいこう、日本のシャワーは辛すぎる。水がとても冷たい」
今では思い出話しです。いつもトイレで水浴びをしていた彼はお湯が出るのに気付かなかったのです。
「オンライン英会話とフィリピン留学が成功したら日本で住みたいな」
まさかアルが裏切るとは思ってもみなかったです。
今思えば「絆」ができていなかったのです。初めから利害が絡む関係にいたのでアルにとっての私は最後までGive and Takeの関係だったのかもしれません。アルにとっての「絆」は私ではなく彼の身内だったのです。