第2章 フィリピン留学編
第34話 小さな芽、少しずつ変わり始めたⅡ
淡いひと時
先生が700人、フィリピン留学の生徒500人、私がセブにいる時にプライベートはありません。私がどこで何をしたか、誰と会ったのかはみんな知っています。
特に先生の情報網は完璧なのです。先生の兄弟や友達が私を見ると報告するからです。私がバーで毎晩歌姫と飲んでいるのも知っていました。
「らいこう、歌姫が可愛そうよ。彼女は独身で独りぼっちなの。寂しいに違いないわ」
と言うのです。だいたいイベントが少ない街なので色恋沙汰は大好きです。
今まで私がモテないのを知っているので聞いてもいないのに情報を集めてきます。そして何より彼女がフィリピン留学に残るのを期待しているのです。
7人のスーパーティーチャーが緊急ミーティングをすると言うので行ってみると「らいこうがなぜモテないのか」が議題でした。
「らいこう、女は告白してくるのを待っているのよ」
「男が積極的にならなくちゃダメよ」
「フィリピンなら歌を歌った方がいいわ」
など勝手なことを言っています。私はギターも弾けませんし歌も歌えません。
卒業なさって直ぐにラブレターを書いたんです。
「お付き合いして欲しい」と。
さすがです英語で直ぐに返信がきて「I can honestly say that I don`t have any feelings to you. I`m really sorry.」でした。
英語での返信だったので私達の学校がとても役にたったのだと負け惜しみで思っています。もしOKでしたら大ニュースだったのですがね。
因みに先日ヤフーのニュースでご結婚なさったと聞きました。
彼女は未だにオンラインで勉強を続けています。いつの日かまたフィリピン留学にいらして頂けることをお祈りしています。
その後の反省会は悲惨でした。
「だいたいらいこうはバカよ」
「何でセブにいる時に直接言わなかったの」
「らいこうがバーで夜中まで歌姫といたのは知っているわ。てっきりその時話をしているのかと思っていたわよ」
「私達が甘かったわ。良い雰囲気だからてっきり上手く行っていると思っていたもの」
「そうよ、まさか何も言っていなくて帰ってから手紙なんて。最悪よ」
「油断したわ。もっとちゃんと指導をしておけば良かった」
先生の生活にも変化が
先日ヘルガとドーリーは韓国に行ってきました。ゲイルはオーストラリアです。フィリピン留学を初めて少しずつですが先生たちも海外旅行に行けるようになって来ました。
デズに日本人のボーイフレンドができ独身だったゼットが結婚してノリーンももうすぐママになります。ミアには2人の子供がいて今ではITパークの近くに家族を呼び寄せて生活しています。もちろん水道がありちゃんとシャワーを浴びられるクラスAの住宅に住んでいます。先日遊びに行ったらベビーカーは健在でミアの妹の子供が使っていました。時間が流れるのは早いものです。
フィリピン留学が始まって丁度一年が経った2012年11月、ノリーンの結婚式での出来事です。大きな教会で家族や友達が100人以上集まり盛大な結婚式になりました。
フィリピン式の結婚式は歌や踊りがあって賑やかです。もちろん新郎と新婦も踊ってみんなでお祝いします。新婦のウエディングドレスに針でお祝いのお金を縫い付けていくのには驚きました。おおらかで明るい彼らにピッタシの結婚式だったのです。
踊りつかれた頃いきなりスピーチを求められました。
「今から30年前、私が19歳の時の話です。進路も決まらずに何をして良いのかわからなかった私は答えを求めてアメリカへ渡りました。偶然、いいえ、何かによって引き寄せられるように年配のアメリカ人女性に出会ったのです。彼女の見返りを求めない親切から「人情」の大切さを学びました。
その時の私は英語が話せず満足にお礼をすることができませんでした。それでもつたない英語で感謝の気持ちを伝えようとしていたら「これからは日本の時代がくる。日本が発展したら次に始める若いチャレンジャーと必ず会うはずです。私のしたことに感謝していただけるのであれば未来にあう次の挑戦者に「人情」をかけてあげて欲しい」
未だに忘れられません。私が出会った次の挑戦者はフィリピン人です。この国はこれから発展を始める若い国です。もし私のしていることに少しでも役にたっているのであれば忘れないでほしい。いつかフィリピンが発展したら次の挑戦者がみんなの前に現れるでしょう。その時に無償の「人情」で若い挑戦者を助けてあげて欲しい。30年前に私がもらったタスキは今君たちに引き継きました。さらに発展させて次の世代につないで欲しいと思っています」
スーパーティーチャー達の生活もオンライン英会話とフィリピン留学を始めることにより少しずつ変わり始めたのです。
さあ、2013年になります。いよいよセブ島を襲った観測史最大の台風が近づいてきました。