アジア諸国の英語教育を比較!彼らに負けない英語力のために保護者ができることは?
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日本では2020年の学習指導要領の改訂に伴って小学校中学年からの英語教育が必修化され、子供の英語教育に大きな変化の波が訪れています。
このような状況を受けて、日本以外のアジア諸国の英語教育の現状はどのようなものなのか、気になる保護者の方も多いことでしょう。
そこで、今回の記事では、アジア各国の英語教育について、小学生の段階ではどの程度の英語教育がなされているのかを中心に整理し、それを踏まえて、日本の子供達の英語教育に必要なことは何なのかを考えてみます。
この記事は以下のような人におすすめです。
・アジア諸国の英語教育の現状を知りたい
・子供の英語力アップのために必要な要素を知りたい
アジア各国の英語教育の実状
さっそく、東アジア、東南アジア各国の英語教育の実状と子供達の英語力について見ていくことにしましょう。
以下、東アジアでは中国と韓国、そして東南アジアの国の中ではASEAN加盟国のうち、インドネシア、フィリピン、シンガポールの3ヶ国について取り上げます。
中国での英語教育の現状
ほとんどの学校においては、小学3年生から英語教育が開始されます。しかし、小学校での英語教育が始まる前に英語を習わせる家庭が多く、幼稚園から英語を習い始めるという子供も少なくありません。
歴史的な経緯を見ると、かつて中国ではロシア語の学習が盛んでしたが、1960年代辺りから、ロシア語よりも英語学習者の割合が上回るようになります。
その後、1978年に英語が大学受験の教科の一つとなり、80年代にこれを受験科目とする大学が増えると英語の学習需要は高まっていきました。そして1990年代になると、TOEFLやIELTSといった世界共通の英語能力試験を受験する生徒たちも爆発的に増加しました。
このようなある意味歴史のある中国での英語教育ですが、学校での英語教育の内容を見ると、いわゆる「受験英語」のような、試験対策としての学習という側面がまだまだ強く、このような内容が学習のメインとなっていることに否定的な意見も多いようです。
また、今日では国際語としての中国語の地位が高まったことによって、英語の重要性は低いと考える人たちも少なくないという他のアジア諸国にはない特徴として興味深いところです。
しかし、それでも英語教育への関心の高さと学習者の人口は衰える所を知らず、中国でのオンライン英語の市場は拡大の一途をたどっています。
こうした指導機関では、アメリカ等の英語圏から指導者を招くことにより、質の高い英語教育を提供することを可能としています。今後ますます高い英語力を持った子供たちが増えていくことが予想されます。
韓国での英語教育の現状
韓国は近年アジア諸国の中では大きく英語力を伸ばしている国の一つです。
韓国における英語教育の転機となったのは1997年に起きた通貨危機でした。多くの韓国企業にとって危機的状況となったこの出来事をきっかけに、企業はグローバル化を推進し、それに伴って高い英語力を有する人材の必要性が高まっていきました。
この流れは国を挙げての英語教育改革へと繋がりました。
その結果、現在は小学一年生から英語教育が開始されるほど、英語教育に力を入れた国へと変貌を遂げています。
韓国といえば、その教育熱の高さや受験戦争の熾烈さを連想する方も多いことでしょう。子供たちが、学校の授業が終わった後も塾などで夜遅くまで一心不乱に勉強に励んでいる光景は日本でも有名です。
このような様子を見ると、英語教育の中身もいわゆる「受験英語」のような、受験で点を取ることに特化した学習内容になっているかと思ってしまいます。
しかし、そうではないのです。現在、韓国の学校では、日本で受験英語と言われるような文法や長文読解などの実用性の低い学習内容から脱却を図り、会話力やライティングの能力など実践力を重視したカリキュラムに基づいた英語教育を行なっています。
上でお話しした通貨危機をきっかけに掲げられた「英語を使える人材を育成する」という目標を実現するためのカリキュラムを設定し、なおかつ成果も上げているのが韓国の英語教育の実状です。
この点は上で、説明した中国の状況とは対照的と言えるでしょう。
フィリピンでの英語教育の現状
フィリピンは、シンガポールと並んでアジア諸国の中では英語力の高い国として挙げられる国の一つです。
フィリピンでは、小学1年生より英語の学習が始まります。授業内容は学校によって差があるものの、週5日程度、1コマあたり60分の授業が行なわれる学校が多く、時間だけ見ても日本と比較して大きな差があることが分かります。
また、3年生からは英語の授業としてだけではなく、多科目の授業も英語によって行なわれるようになります。このあたりは後で説明するシンガポールの教育と似ています。
英語の授業単体でも、小学校の低学年から高学年まで毎日のように行なわれ、それに加えて英語による授業も行なわれていくわけですから、英語に触れる時間は小学校だけで膨大なものとなります。
日本では6年間で英語に触れる時間が200時間強とされていますが、フィリピンの子供たちはその10倍もの時間英語に触れることとなるのです。
インドネシアでの英語教育の現状
インドネシアは、小学校における英語教育は必修化されておらず、国の姿勢としてはそれほど英語教育に対して積極的ではないように見受けられます。
英語教育に力を入れているかそうでないかは地域によって、そして学校によって差が大きいのが現状のようです。
しかし、英語教育に対して関心が薄いかといえばそういうことはないようで、ジャカルタなど大都市の学校における英語教育の質は高く、また、こうした都市部の裕福な家庭においては年齢が低いうちから英語を学ぶ子供が多いようです。
ただ、そうした国の英語教育の現状はそれほどマイナスの影響を与えてはおらず、子供を含め英語を話せる人達は増えているという印象を受けます。
筆者が出会ったインドネシア人たちも、訛りは強いもののある程度の英語力を有している人が多く、若い世代の人たちに至っては訛りも少ないきれいな英語を話す人も増えています。
これは後述するように、インドネシア語の特徴から、日本人が英語を学ぶときよりも英語は学びやすい言語であるのではないかと推察されます。
シンガポールでの英語教育の現状
シンガポールはアジア諸国の中で、英語教育が最も進んでおり成果を収めている国の一つであると言えるでしょう。シンガポールにおける英語教育の開始時期は早く、小学1年生より英語を学び始めます。
そして英語の授業だけでなく、他の授業も英語で行なっていくというのが大きな特徴となっています。それと同時に多民族国家であるシンガポールではそれぞれの母語での学びも同時に進めていくこととなっています。
学校の勉強の一環として英語を学ぶというよりも、母語に加えて共通語としての言語を身につけることを目指した英語教育であることが特徴です。
こうした社会背景があるため、当然カリキュラムを含め教育内容はきちんと効果を挙げられるものでなくてはなりません。
そのため、小学校の早い段階から、圧倒的な量の英語に触れる機会があること、そして、単に英語の授業の中で英語を学ぶのではなく英語を使って学ぶということをすることによって、「英語で」何かをする力というものが自然と培われるような教育内容となっているのです。この点ではフィリピンとの共通点が多いと言えます。
英語力の差は英語教育の内容だけが原因ではない
このように、他国の現状を知ると日本の英語教育が遅れているのではともどかしさを感じがちです。
しかし、英語力の差は、英語教育以外の要素も関係していることに注意が必要です。
例えば、フィリピンでは公用語の一つが英語です。公用語となっているのですから、そうではない国のそれと比較してより高度なものとなっているのはある意味当然なことです。
また、公用語であるということは話者が多いわけですから、周りの大人であったり、英語によるコンテンツであったり、社会全体において英語に触れやすい環境にあるので、英語力に差が出てくるのも当然といえるでしょう。
シンガポールのような多民族国家であれば、共通の言語として早期から英語を習得する必要性の度合いが違いますから、自ずと語学教育の質がアップしていくのはやはり当然のことでしょう。
また、その国で母語として用いられている言語の特性上、英語に親しみやすい、学習効果が出やすい(学びやすい)ということもあります。
例えば、インドネシア語のように、英語と同じアルファベットを利用している国では、それだけ学習のハードルは低くなります。
また、インドネシア語は、歴史的な経緯からオランダ語の影響が大きく、語彙などもオランダ語を語源とするものが多数存在します。そのオランダ語は英語と共通点の多い言語です。
また、中国語のように、語順が近いなどの文法面での共通点や母音が多いなどといった特徴も英語の学びやすさで差が出るはずです。
ですから、英語教育の実施状況のみをもって英語力の差を論じることには無理があるのです。このようなデータはあくまでも参考程度に見るのが良いでしょう。
他のアジア諸国の子供たちに負けない英語力をつけるためにできること
英語教育の質のみによって英語力の高低が決まるわけではないとしても、他のアジア諸国の子供達と英語力で大きな差をつけられてしまうことはできれば避けたいものです。
言語的に英語との共通点が少ない言葉が母語である国で、また、英語教育の質に関してまだ課題の残る状況で、他のアジアの国々と英語力で引けを取らないようにするためにはどうすればいいのでしょうか。保護者ができることはあるのでしょうか。
これを考えるときに、以下の記事で引用されているETSの現取締役副社長兼最高執行責任者であるデヴィッド・ハント氏の発言が参考になります。
その発言とは、英語教育が発展する国、地域の条件について述べたもので、そこで挙げられた4つの要素をキーワード化すると「早期」「質」「実践」「インセンティブ」ということになります。
早期から質の高い英語教育を行い、実践する場が設けられ、英語を学ぶことに対してインセンティブがあれば子供たちは英語力を伸ばせるというのです。
確かに、この発言内で挙げられている4つの要素を満たす英語教育が行なわれている国においては、成果が上がっている傾向が強いように思われます。
一方で、日本の学校ではどうでしょうか。
日本では、既にご存じの方も多いと思いますが、学習指導要領の改訂によって2020年より、小学校での英語が必修化され、小学3年生より外国語活動という形で英語の学習が始まりより英語教育が活発になっています。
この新しいカリキュラムに基づく英語教育の成果はまだ見えてきてはいませんが、小学校における英語教育の現状は文部科学省が行なった英語教育実施状況調査の調査結果の中からある程度把握することができます。
この結果を見る限りにおいては、子供に対する英語指導のノウハウの確立、授業時間、人材の確保等さまざまな面において課題が山積しているのが現状です。
率直な印象としては、少なくとも現時点においては上で挙げた4つの条件を満たすまでにはまだまだ時間がかかると言わざるを得ません。
また、フィリピンやシンガポールといった英語教育先進国とも呼べる国々と同等の英語教育を実現することも、今の状況ではなかなか難しいかもしれません。
このような英語教育に力を入れ始めてから既に長い期間が経過している国の場合、当然大人たちも英語力の高い人の割合が多いということですから、英語を指導する人材や環境などでも圧倒的に差をつけられているからです。
ただ、学校での英語教育が上で挙げたような要素を満たさないようなものであったとしても悲観することはありません。
なぜならば、家庭でこれらの要素を満たした学習環境を用意してあげることはそれほど難しいことではないためです。
「質」と「実践」、これはスクールやオンライン英会話を利用すれば容易に実現可能です。
また、「早期から始める」ということについても同様です。小学校では3年生からのスタートであり、その内容も「外国語活動」というか形で本格的に英語を学ばせたいとなった場合には質・量ともに物足りないものです。
これも、オンライン英会話等であれば、その年齢に見合った効果的な指導方法とカリキュラムが用意されていますからより低年齢から本格的に英語を学び始めることが可能なのです。
さいごに
この記事ではアジア諸国の英語教育について見ていくと共に、日本の子供たちが他のアジアの子たちに負けない英語力を得るためにはどうすればよいのか考えてみました。
日本ではまだ課題も多い英語教育ですが、学校教育に頼らなくても英語力を伸ばす環境を作ることは十分に可能です。本記事でも触れたような点を意識した学習環境を作ってあげましょう。
参考記事:
English as a Second Language Still a Pipe Dream
English education in China: An evolutionary perspective
English language education in China: Initiation, innovation, and integration
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さびねこ
【自己紹介】
英検1級取得後、英語講師を経て、フリーランスで翻訳・ライティング業務を行う。
【英語力・指導経験】
都内の大学(法学部法律学科)大学在学中に英検1級に独学で合格。その後、英会話スクールにて、幼児クラスから、小学生向けクラス、そして、高校生・社会人クラスと一通り担当。独学で英語をマスターし他経験、指導経験から、学習者としての視点と指導者としての視点双方から発信しています。
【資格およびスキル等】
・英検1級・法律英語
・スペイン語、イタリア語、インドネシア語会話(まだ初級~中級レベル)