「価値観をぶち壊すために」

miko(教師)

miko

 自分の価値観や固定観念がぶち壊れる感覚がたまらない―だから、私は世界を目指すのである。
 私たちが住む日本は、世界の中では経済的に豊かであり、便利な国である。島国であるため、陸続きの国々に比べれば海外へ出かけるには手間や時間がかかるが、インターネットで一瞬にして世界と繋がることができる。そのため、世界へ一歩も出なくても、日本に居ながらにして世界を知ることができる。ゆえに、わざわざ日本へ出る必要がない―そう考える人も少なくないだろう。しかし、本当の「セカイ」を知り、自分の価値観を広げるためには、果たしてそれでいいのだろうか。
 私はこれまで、アジアを中心に8つの国と地域を訪れた。その中でも特に、「世界中に行きたい!」と思うきっかけとなったのは、大学時代にスタディーツアーで訪れたインド、フィリピンの経験である。この2つの国は、私のそれまでの価値観や固定観念を粉々にぶち壊してくれた。
 大学在学時、一番初めに訪れた国はインドだった。ここでは、「宗教」に対する考えがぶち壊された。前述したとおり、インドにはスタディーツアーで参加した訳だが、その目的の一つは宗教理解であった。大学はキリスト教であったが、私自身は多くの日本人と同様、特定の宗教は信仰しておらず、あまりいいイメージを持っていなかった。それまでの人生の中で、宗教といったら、いわゆるオカルト的なものを一番にイメージしていた。また、世界では宗教の違いによる戦争や内戦が頻発しているため、当時は、宗教がないほうが世界は平和になるのではないだろうか、とまで考えていた。しかし、その考えは、インドの孤児院で、子どもたちとお祈りの時間をともに過ごしたことでぶち壊れた。
孤児院では、子どもたちと歌ったり踊ったり遊んで過ごすのがメインだった。子どもたちはとても無邪気で、屈託のない笑顔で一緒に遊んでくれた。しかし、お祈りの時間になったとたん、その表情は一変した。真剣な面持ちで、目を閉じ、神様にお祈りをする。中には、涙を流しながらお祈りをする子どももいた。彼らはさまざまな理由で親をなくしたり、離れて暮らすことになったりし、ここの孤児院で生活をしている。私を含め、多くの日本人は、両親の存在は当たり前であり、日々愛情を注いでもらって生きている。しかし、ここにいる子どもたちは、この当たり前が当たり前でない。彼らにとって心のよりどころは、唯一神だけなのである。そんな彼らから「宗教」を奪ってしまったら、何を心の支えに生きていけばいいのだろうか。この経験が、私の中の「宗教」に対する価値観を変えた。
 インドでの経験により、他の開発途上国も見てみたいと思った私は、翌年度フィリピンのスタディーツアーに参加した。ここで粉々になったのは、「フィリピン人に対するイメージ」だった。
日本にいると、フィリピンについて入ってくる情報の多くは、天災に遭い、家族や家を失った人々のニュースである。テレビに映るのは、被害に遭った人々の、いわゆる可哀そうな姿だ。こうした情報しか知らなかったため、フィリピンへ行く前のフィリピン人に対するイメージは、「貧しい」「多くのアジア同様におとなしくて質素」「学校に行けず、勉強したい子どもが多い」であった。しかし、実際に訪れたことにより、そのイメージは大きく崩れ去った。
 結論から言うと、日本と比べれば、フィリピンは確かに経済的に貧しい国である。1日1食を食べるのがやっとの人もまだまだたくさんいる。こうした状況の中、フィリピン人は悲しみや不安にあえいでいるのかというと、そうではなかった。かつてスペインの植民地だったこともあり、フィリピン人はラテンのノリだったのである。そして、底抜けに明るい人が多い。経済的に貧しいのだが、そんな状況をジョークで笑い飛ばす人が多かった。また、現地の大学生と交流する機会もあったのだが、日本人の大学生同様におしゃれに興味を持ち、授業中もこっそり携帯電話で遊んだり、授業をさぼったりもする。勉強がさほど好きではない人もいた。日本で形成された、フィリピンという国の固定観念が、実際に現地を訪れたことにより、もろくも崩れ去った。
 以上のように、インドとフィリピンでの経験を書いたが、新しい国へ行くたびに、自分の中の価値観や固定観念がガラガラと大きな音を立てて崩れる。そして日本に帰ると、今までと違った見方で日本や自分自身を見つめていることに気がつく。それはまるで、何か新しい自分になったようであり、その感覚がたまらないのである。この感覚は、日本でネットサーフィンしているだけでは得られない。実際に、自分がその国へ行き、体験する以外には感じ得られないのである。
 なぜ、私が世界を目指すのか。―その答えは、自分の価値観や固定観念がぶち壊れる感覚がたまらないからである。これが一番の理由だ。

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