「1人の子供、1人の教師、1本のペン、そして1冊の本、それで世界を変えることができます。」(One child, one teacher, one pen and one book can change the world.) これは、今年のノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんが行ったスピーチです。私たちに当然のように与えられている環境や物が与えられないため、よりよい生活をするための機会を失っている人がたくさんいることを、改めて教えてくれるもので、教育と本の力を信じる私にとって、心に迫るものでした。しかし、物はあっても本や教育を受けることの素晴らしさを知らない人や、貧しさのため進学をあきらめる人が増えている日本においても、これは決して他人ごとではないと感じています。
私は図書館で働いています。物語、知識、情報の詰まった本や電子媒体を集め、様々なニーズを持った人たちに提供することが仕事です。情報と人が集まり、それを使う場所を提供する図書館には、無限の可能性があると考えています。図書館には、楽しみのための読書だけでなく、勉強、調べもの、情報収集など、いろいろな目的で人が集まってきます。近頃は、積極的な情報発信も行っています。例えば、起業支援や医療・健康情報サービスなど、生活をするうえで重要だけれど、専門的で調べにくい情報を特別に提供する図書館が増えてきました。また、カフェを併設し、グループで話し合いながら利用できるエリアを設けるなど、静かで無味乾燥な施設という図書館のこれまでの固定概念を覆した、居心地の良さを重視するところも増えてきました。
図書館で働く司書には、様々な人的ネットワークがあり、情報交換や協力をしています。通常のビジネスでは同業者といえばライバルとなる存在ですが、図書館の世界では同業者は協力し支えあう仲間です。なぜなら、ひとつの図書館であらゆる情報ニーズを満たすことは物理的に不可能だからです。でも、世界中の図書館が協力すれば、資料がなくて調べられなかった調査依頼にも応えられるし、絶版で入手困難となっている本も提供することが可能となります。図書館の使命は、あらゆる人の情報ニーズを満たすことなので、私たち司書は、他の図書館を利用する方のニーズを満たすことにも喜びを感じます。ほかの図書館の良いサービスをお手本に、自分のところでも実施するということもあります。そのため私たちはよその図書館を見学に行くし、逆に見学に来られたときは誠心誠意対応します。このように業界全体で協力し切磋琢磨するという図書館カルチャー、そしてそのカルチャーの根底にある、本と情報そして知的活動で万人の生活を支えるという思想が素晴らしいと思っています。
この図書館カルチャーをより発展させるために、私は世界に目を向けるべきだと思っています。そのために司書の国際的な会議に参加してレクチャーを受け、ディスカッションをする、海外の図書館を見て回る、その中で働いてみる。そういうことをしてみたいです。実は、私は国際会議への参加や海外の図書館見学はしたことがあります。参加費、交通費、滞在費を払いさえすれば会議に出席することは簡単ですし、見学をすることだってそれほど難しくはありません。でも高い語学力がなければ、本当に実のある情報収集をすることもできないし、自分の考えを的確に伝えることができず、歯がゆい思いをすることが多々あります。私の語学力は日本人としては決して低いほうではないと思っています。けれど、国際会議の場にいると、今何がディスカッションされているのかわからないこともあるし、意見を求められて答えられないこともあり、現場で必要なレベルにはまだまだ達していないことを痛感しているのです。その壁を突き抜けるための語学習得を切に望んでいます。そしてそれは語学学校のコースを受講するだけではなく、現場に飛び込み実地で習得することも視野に入れています。
最終的には図書館先進国から学び、それを生かして本1冊も持つこともできない国の人たちに本や情報を届け、そしてそれを読みこなすための教育を提供することができないか、考えていきたいです。冒頭のマララさんのスピーチを聞いたとき、それが私の使命と感じました。